ペルー政治はいま、ここ数年とは大きく異なる局面に入っている。新たに選出された政権が発足し、二院制の国会が復活したほか、就任直後の大統領は比較的高い支持率を維持している。 一方で、政権と国会の関係には早くも緊張の兆しが見え始めている。
ケイコ・フジモリ大統領は2026年7月28日に就任した。 決選投票ではロベルト・サンチェス氏を僅差で破り、9,223,396票を獲得。サンチェス氏は9,173,755票だった。投票の不正や無効をサンチェス側は訴えていたが、最終的に全国選挙審議会(JNE)は、フジモリ氏を2026年から2031年までの大統領として正式に宣言した。
与党は最大勢力だが、単独過半数には届かず
フジモリ氏が率いる人民勢力党(Fuerza Popular)は国会で最大勢力となったが、上院・下院のいずれでも単独で過半数を確保していない。
上院60議席のうち、人民勢力党は22議席。続いて「ペルーのために共に Juntos por el Perú (JPP)」が14議席、「国民刷新 Renovación Popular (RP)」が8議席、「善き政府 Partido del Buen Gobierno (PBG)」が7議席、「オブラス Partido Cívico OBRAS」が5議席、「アオラ・ナシオン Ahora Nación (AN)」が4議席となっている。
下院でも状況は同様で、人民勢力党は130議席のうち41議席を占める。「ペルーのために共に Juntos por el Perú (JPP)」は32議席、「善き政府 Partido del Buen Gobierno (PBG)」は18議席、「国民刷新 Renovación Popular (RP)」は15議席、「オブラス Partido Cívico OBRAS」は14議席、「アオラ・ナシオン Ahora Nación (AN)」は10議席を保有する。
このため、政府が重要法案や改革を進めるには、案件ごとに他党との合意形成が必要になる。 人民勢力党は国民刷新などと政策面で一致する可能性があるものの、常に自動的に過半数を確保できる状況ではない。
つまり、フジモリ政権は過去のいくつかの政権と比べれば強い政治基盤を持つ一方、自由に政策を通せるほどの議会支配力は持っていない。
最初の大きな攻防は「立法権限の委任」
新政権発足後、最初の大きな政治的対立となっているのが、政府が国会に求めている立法権限の委任である。ルイス・ガラレタ首相率いる政府は、120日間にわたり、複数の分野について法律と同等の効力を持つ政令を制定できる権限を求めている。
対象には、治安対策、組織犯罪、エルニーニョ現象への備え、投資促進、行政簡素化、生産振興などが含まれている。しかし、この要請には国会内から反発も出ている。
9月9日時点で、下院の4つの委員会が一部の権限委任に反対する意見を示す一方、2つの委員会は賛成している。
これらは最終決定ではなく諮問的な意見にすぎないが、野党側が政府の政策を修正したり、場合によっては阻止したりする力を持っていることを示している。
この問題は、現在のペルー政治の力関係を象徴している。フジモリ氏は大統領職を握り、最大会派も持っているが、政策ごとに多数派を形成しなければならない。
治安対策が政権の評価を左右する可能性
今後のフジモリ政権を左右する最重要テーマの一つとなっているのが、犯罪、恐喝、組織犯罪への対応だろう。政府は、情報機関の能力強化、警察と軍の連携強化、犯罪組織に対するより厳しい対応などを打ち出している。
一部の提案には、特定の犯罪組織を法的にどのように位置づけるかを見直す内容も含まれているが、治安改善で目に見える成果を出せば、治安政策は政権支持を支える最大の柱になる可能性があると考えられる。
逆に、恐喝や殺人、犯罪組織による攻撃が続けば、大統領支持率を急速に押し下げる要因になる可能性が高くなるということだ。
フジモリ政権は現在のところ比較的高い支持率
確認できた全国世論調査では、8月5日と6日に実施されたIpsosの調査で、フジモリ大統領の支持率は57%、不支持率は25%だった。
発足直後の内閣についても、50%が支持、36%が不支持と回答している。
ただし、この数字は政権発足直後のものであり、いわゆる「ハネムーン期間」の影響を大きく受けている可能性があるので、現在の支持が長期的なものかどうかを判断するにはまだ早い。むしろ、今後2~3か月の推移が、政権の実力を測るうえでより重要になる。
制度は変わったが、政治的分断は残る
国会制度は二院制へと変わったものの、ペルー社会と政治に存在してきた分断が消えたわけではない。新国会では6つの主要勢力が議席を持つと考えられるだろう。
フジモリ派・保守系勢力と、「ペルーのために共に」を中心とする左派勢力が対峙する一方、中間勢力が法案の成否を左右する構図となっていることに注目したい。
上院の復活により、法案審議には新たなチェック機能が加わった。下院を通過した法案でも、上院で修正されたり、反対を受けたりする可能性がある。
これは議論の質を高める可能性がある一方、改革を進める過程がより複雑になることも意味している。
最近では「フジモリ大統領が国会を解散しようとしている」とする情報がSNSなどで拡散したが、実際には国会は解散されておらず、フジモリ氏自身もその可能性を否定している。
こうした偽情報が広がったこと自体、ペルー社会が依然として制度的な対立に敏感であることを示している証拠だ。
社会紛争は政権にとって見えにくいリスク
首都リマの政治だけでなく、地方で続く社会紛争も政権運営を左右する重要な要素である。ペルーのオンブズマン機関によると、7月時点で全国に191件の社会紛争が確認されている。このうち150件が進行中、41件が潜在的な紛争とされている。さらに、新たに4件が発生し、2件が再び活発化した。つまり、政権の安定は国会との関係だけで決まるものではない。鉱業、天然資源、領土・境界問題、地域住民の要求、地方自治体、公共サービスなどをめぐる問題が適切に管理されなければ、大きな政治危機に発展する可能性がある。
10月4日の地方選挙が最初の大きな政治テスト
今後の政治を占う重要な日程として、2026年10月4日の地方・州・市町村選挙がある。2,600万人以上の有権者が、州知事や地方自治体の首長、地方議会の代表などを選ぶ。
この選挙によって中央政府の存続が直接左右されるわけではない。
しかし、大統領選後、初めて国民の政治的な意向を広範囲に測る機会となる。人民勢力党が地方でも支持を広げられるのか、あるいは6月の大統領選でフジモリ氏に集まった票が地方政治では別の勢力に向かうのかが注目される。
また、外交面では、米国との関係強化が明確になり始めている。米国のマルコ・ルビオ国務長官は地域歴訪の一環として、9月10日に大統領府でケイコ・フジモリ大統領と会談する予定となっている。議題には、治安、国際的な組織犯罪、防衛、投資、貿易、エルニーニョ現象への協力などが含まれる見通しだ。新政権が、特に安全保障と貿易の分野でワシントンとの関係を重視していることがうかがえる。
一方、ペルーは他の主要な経済パートナーとの関係も維持する必要があり、外交上のバランスが重要になる。また、フジモリ政権による一部の外交人事については、任命された人物の経験や経歴をめぐり、学識者や政治関係者の間で批判も出始めていることにも事実だ。
現在のペルー政治をどう見るべきか
現時点で、ペルーが過去10年間に繰り返してきたような深刻な政治危機に入っているとは言えない。選挙で選ばれた新政権が存在し、発足直後の支持率も比較的高い。
国会も正常に設置され、二院制の制度が再び機能し始めている。ただし、安定が保証されているわけではない。フジモリ政権にとって本当の試練はこれから始まる。
治安対策で成果を出せるか。国会で単独過半数を持たない中で他党と交渉できるか。全国191件の社会紛争に対応できるか。エルニーニョ現象への備えを進められるか。
そして政治的な論争によって、大統領選で得た政治的な資産を失わずに済むか。
現在の状況を見る限り、ケイコ・フジモリ大統領は近年の多くの大統領よりも強い政治的・制度的基盤を持って政権をスタートさせている。
しかし、自党だけで国を動かせるほどの力はない。
今後の最大の焦点は、この初期の優位性を幅広い政治合意へとつなげられるのか、それとも行政と国会の関係が再び対立へ向かうのかという点にある。
その最初の重要な判断材料となるのが、10月4日の地方・州・市町村選挙である。その結果を見れば、フジモリ政権発足後のペルー政治の本当の勢力図が、これまで以上にはっきり見えてくるだろう。
写真:Presidencia Peru

