古代アンデス文明展、上野・国立科学博物館で開幕
10月21日より、東京・上野の国立科学博物館で、「古代アンデス文明展」が開幕した。
これまでも同科学博物館では、5回にわたり古代アンデス文明について、展覧会を開いてきたが、それは古代アンデス時代に栄えた文化を選びその世界を紹介するものだった。しかし今回の「古代アンデス文明展」では、南米大陸のペルー~ボリビアを中心とした中央アンデス地域に人類が到達した先史時代から、16世紀スペイン人がインカ帝国を滅ぼすまでの約1万5千年の間の、アンデス文明の全貌を紹介し、数多く生まれた文化の中から、歴史の主要となる9つの文化を取り上げている。
ところで、アンデス文明とはいったい何だろうか?私たちが知るナスカの地上絵が生まれたナスカ文化、インカ帝国が作り上げたマチュピチュ、土器や黄金文化が開花したモチェ文化等、これらは悠久の時を刻み、独自の文明を育てていった古代アンデス文明のほんの一部でしかない。
今回の「古代アンデス文明展」では、日本人考古学者の島田泉教授(南イリノイ大学)が発見したシカン文化、ティワナク文化、割文化など、アンデス文明の中では重要な役割をする文化でありながら、あまり日本で紹介されてこなかった文化にも重きを置いている。
アンデス文明は、紀元前3000年から始まり、スペインによって滅ぼされる16世紀まで、代表的な9つの文化が生まれていた。カラル文化、チャビン文化、ティワナク文化、ワリ文化、シカン文化、チムー文化、そしてインカ帝国、これらが複雑に重なり合いながら、巨大なアンデス文明を作ってきたのだ。
時代を追った展示エリアからは、アンデス文明の基幹となす、神話や神々を知ることができる。そして神の偉大さ、支配する王の権威を高めるために、装飾品や建築物の高度な技術、金の加工技術が生まれ、文化が進むごとに成熟していく様が展示物から読み取れるのだ。
アンデス文明は、その文明も基幹となす神々や神話、王や神官が行う宗教儀礼を育て、同時に神殿を作り上げる優れた建築技術や、金細工、繊維の加工、染色織物技術を成熟させてきた。
本展では、9つの文化から選び抜かれた展示物約200点が紹介され、3体のミイラが展示されている。今回特に注目したものの中に、初めての海外での展示となるチャビン文化の象形土器の一つがあった。それは、宗教的指導者が切り落とされた自分の首を持っているものであり、全9つの文化を通じて、共通している「神への生贄」の習慣を象徴し、伝承していくためのシンボルのように見えた。
神と共に、厳しい気象条件の中で文化を生み出し、生きてきた人々の独自の世界観、土器で表現される人物の驚くほどのリアリティーに、驚きを隠せない。
本展示には、泉教授らがどのように遺跡を発掘していくか、道具やその方法も合わせて紹介されている。文字を持たなかった人たちが残した文化を、どうやって文化の全容を読み取り、次の文化へとつながるヒントを探していったのかも大変興味深い。