ペルー保健省の抜き打ち査察で相次ぐ不備発覚 5,600万本の注射器が倉庫に放置、医療施設の半数超がネット未整備

ダイアー保健相、就任直後から医療行政の実態調査を本格化

ペルーのルイス・ウィリアムズ・ダイアー保健大臣は、2026年7月末の就任以来、保健省(MINSA)や国立医療機関、医療物資の保管施設などで抜き打ち査察を実施し、医療行政における深刻な管理上の問題を相次いで明らかにしている。

中でも最も注目されているのが、新型コロナウイルス感染症対策として2022年に購入された約5,600万本の安全注射器だ。約4,900万ソル(約20億円規模)で調達されたこれらの注射器は、現在も倉庫に大量保管されたままとなっており、一部は使用期限が迫っている。大臣は「なぜこれほど大量に購入されたのか、調達の経緯を徹底的に調査する必要がある」と述べ、会計監査機関(Contraloría General)による調査を要請した。

査察ではこのほかにも、医薬品行政のデジタル化の遅れや、医療現場の人員配置の非効率性など、ペルーの医療システムが抱える構造的な課題が次々と明らかになっている。


1. 約4,900万ソルで購入された5,600万本の注射器、2022年から倉庫に放置

今回の一連の査察で最も衝撃的な発見とされているのが、この注射器の保管問題である。ダイアー保健相は、リマ郊外プンタ・エルモサにある国立医療物資センター(CENARES)を視察し、新型コロナウイルスワクチン接種用としてパンデミック中に調達された5,600万本の安全注射器(リトラクタブルシリンジ)が、そのまま保管され続けていることを確認した。これらは倉庫全体の約36%を占めており、多くが使用期限切れ間近だという。

保健相は当時の需要予測や調達手続きの経緯を調査するとともに、会計監査院による監査を要請する方針を表明した。一方で「現時点で汚職とは断定しない」としながらも、「非常に不自然な状況だ」と述べ、強い懸念を示している。

倉庫に保管されてた検査キットや注射器の説明をうけるダイアー保健大臣

2. 約1,000万ソル相当の期限切れCOVID-19検査キットも保管されたまま

同じCENARESの倉庫では、約1,000万ソル相当の新型コロナ検査キットが使用期限切れとなった後も保管され続けていることが判明した。

これらは司法当局の捜査対象となっているため廃棄できず、2024年には廃棄を認める行政決定が出されていたにもかかわらず、現在まで残されたままとなっている。大量の注射器と合わせて、医薬品や医療資材を保管するスペースを大きく圧迫している状況だ。

3. 保健省所管の医療機関、半数以上でインターネット未整備

ダイアー保健相は、保健省が管轄する全国約7,400か所の医療施設のうち、約54%がインターネットに接続されていないことを明らかにした。

このため、医薬品不足の発生状況や医療従事者の配置、感染症の流行状況などをリアルタイムで把握できない状態が続いている。保健相は「保健省の情報システムは1995年レベルにとどまっている」と厳しく指摘した。

4. 書類、押印、さらにはCDによる情報管理が現在も継続

査察では、多くの業務が依然として紙の書類に依存している実態も判明した。各部署には大量の紙のファイルが保管されており、保健相によれば、一部の行政データは現在もCD(コンパクトディスク)で保存されているという。病院だけでなく、医薬品行政を担うDIGEMIDやCENARESでも、統合されたデジタルシステムが十分に整備されていない。

5. DIGEMIDの抜き打ち査察で職員不在が確認される

医薬品・医療機器・医療資材総局(DIGEMID)への抜き打ち査察では、勤務時間中にもかかわらず席を離れている職員が確認された。執務スペースには「出勤」「在宅勤務」などの表示も見られたという。

ダイアー保健相は勤務体制の見直しを指示した。ただし、個々の職員の不在が直ちに不正や規律違反を意味するわけではなく、正式な許可や勤務形態に基づくものであった可能性もあり、事実確認が進められている。

6. 工事進捗85%のまま約3年間停止していた小児病院の手術室整備

国立小児保健研究所(INSN)ブレーニャ病院では、進捗率約85%まで完成していた7階の新手術室整備事業が、およそ3年間にわたり停止していたことが判明した。

病院側は工事中断に加え、医療機器の保守管理にも課題があると説明しており、保健相は早期完成を指示した。

7. 専門医35人が本来の診療ではなく中央業務に従事

救急医療システム(SAMU)の視察では、35人の専門医が指令センター業務に配置されていることが明らかになった。保健相は、本来は病院で診療に従事できる専門医が事務的業務を担っている点について、人員配置の効率性に疑問を示した。

また、救急車35台のうち8月時点で稼働していたのは28台にとどまり、平均出動時間は約14分だった。国際的な目安とされる8~12分を上回っていることも報告されている。

8. 保健相談ダイヤル「113」で約20%の電話が応答できず

保健省の電話相談窓口「113」には1日約1,200件の電話が寄せられているが、人員不足により十分に対応できていない実態も明らかになった。

査察では、約20%の着信が応答されておらず、過去5年間では約100万件の電話に対応できなかったことが報告された。社会的影響が非常に大きい問題として注目されている。

9. 行政手続きの遅れで最新救急車8台が未配備

ダイアー保健相は、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)の施設で、最新設備を備えた新型救急車8台が保管されたままになっていることを確認した。

これらはラ・リベルタ、アプリマック、ワンカベリカの各州向けに調達されたものだが、地方政府側の行政手続きが完了していなかったため配備されていなかった。査察後、アプリマック州向けの2台については引き渡し手続きが開始されている。

photo: MINSA

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