ペルー映画「マタインディオス、聖なる村」公開
■ペルーのある山岳部の集落で起こる民衆の信仰への疑問を描いた本作品
共に75年生まれのオスカル・サンチェス・サルダニャとロベルト・フルカ・モッタの二人の監督・脚本で作られたこの作品は、オスカル監督の生まれ故郷であるリマ県山岳部のワンガスカルで7年もの制作日数をかけて撮影されている。司祭役の俳優以外全員は実際にワンガスカルで暮らす村人たちが演じているため、作品内容とリンクしたリアリティを感じ取れる一作で、2016年にペルー文化庁のシネ・レヒオナル(地域映画)映画企画コンペティション長編フィクション部門で入賞し、第22回リマ映画祭に出品、2018年のベストペルー映画に選ばれた作品だ。
家族を失った悲しみを終わらせるために、村人4人が村の守護聖人であるサンティアゴを称える祭礼を計画する。その祭礼は、守護聖人を満足させるために完璧なものでなければならない。家族を失い、嘆き悲しむ苦痛からの解放を聖人に祈るのだった。祭礼の準備は順調に進むのだが、予期せぬ出来事によって、自身の信仰と守護聖人による庇護の力に疑問をいだいていく…。
物語はこのような形なのだが、ペルー山岳部の先住民の様々な習慣とカトリック信仰が入り混じった世界を、モノクロ風の映像で淡々と村の日常とともに映し続けている。その色合いは、完全なるモノクロではないためか、妙な肌感覚を感じられ、苦悩を抱えて鬱々とした気持ちになっていく村人の心情をリアルに表しているような作風で、ラストへと向かって作品を見ている側の気持ちをもざわざわとさせていく。
この村の守護聖人であるサンティアゴは、この村の住人にとっては征服者たちが信仰していた守護聖人でもある。その像は、いななく白馬に乗って抜き身の剣を高く振り上げ、白馬の足元には異教徒が仰向けに倒れて手を天にあげている…この違和感、この不条理。そして日常生活に根深く残る捨てきれない自分たちの伝統や習慣や価値観。そのためにラストはいろいろな伏線回収や問題定義となっているように感じられ、オープニングとエンディングでの鍵穴越しの映像は意味を持って見せているように思える。あれはどの神からの見た目なのだろうか、それともこの村の苦悩をのぞき見てしまった私たちへ責任を投げかけるためなのだろうかと最後まで考えさせられる作品であった。
*ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)について
ペルーの首都であるリマ以外の地域を拠点としている、映画監督や制作会社によって作られた映画のこと。
text/illustration:大盛佳代子
2018年製作/77分 配給:ブエナワイカ
劇場公開日:2022年6月18日(土)
東京:シアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開